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MachineUncertainty
信頼とリスク認知

「likely」は何%か——IPCCが確からしさに数値を与えた理由

3分 2026-06-25
「likely」は何%か——IPCCが確からしさに数値を与えた理由

要点

  • IPCC は「likely(可能性が高い)」などの言葉に、明示的な確率の範囲を割り当てている。
  • Mastrandrea ら(2010)のガイダンスでは、「likely」は66%以上、「very likely」は90%以上と定義される。
  • 言葉と数値を対応づけることで、報告書間・著者間の解釈のばらつきを抑える。
  • 確からしさ(likelihood)と確信度(confidence)は別概念として区別される。

「気温上昇は likely である」と科学報告書が述べるとき、その likely は何%を意味するのか。日常語の「可能性が高い」は人によって幅があり、ある人には70%、別の人には90%に響く。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、この言葉の揺らぎそのものを設計対象にした。確からしさの用語に、公式の確率範囲を与えたのである。

言葉に目盛りを刻む

IPCC の第五次評価報告書に向けたガイダンス(Mastrandrea ら, 2010)は、確からしさを表す用語と確率範囲を対応づけた。主要な目盛りを挙げると、「virtually certain(ほぼ確実)」は99〜100%、「very likely」は90〜100%、「likely」は66〜100%、「about as likely as not(どちらも同程度)」は33〜66%、「unlikely」は0〜33%、そして「exceptionally unlikely」は0〜1%、といった具合だ。著者は、ある主張に「likely」と書くとき、自分が66%以上の確からしさを主張していることを意識する。読者も同じ対応表を参照できる。

これは小さな工夫に見えて、報告書の信頼性を支える基盤になっている。何百人もの著者が、何千もの主張を、別々の章で書く。各自が「可能性が高い」を自分の感覚で使えば、報告書全体の確からしさの水準はばらばらになる。共通の目盛りは、その分散を抑える。

確からしさと確信度を分ける

IPCC の枠組みでもう一つ重要なのは、likelihood(確からしさ)と confidence(確信度)を別の軸として扱う点だ。確からしさは、ある結果が起きる確率そのもの。確信度は、その評価をどれだけ強い証拠と専門家の一致に基づいて述べているか、という証拠の質に関わる。証拠が乏しければ、たとえ中心的な見積もりが高くても、確率の数値を断言せず、確信度の低さとして表現する。

この二層構造は、機械の不確実性にもそのまま響く。モデルが出す確率(確からしさ)と、その確率自体がどれだけ当てになるか(メタな確信)は、本来別の問いだ。較正された確率を出せても、訓練分布から離れた入力では、その確率を出すこと自体への確信が下がる。IPCC の用語法は、この区別を制度として明文化した先例といえる。

言葉に縛りをかける代償

もっとも、言葉を数値に固定することには代償もある。日常語に厳密な確率を背負わせると、ガイダンスを知らない読者は通常の語感で読み、専門家は定義どおりに読む——同じ文が二通りに解釈される事態が起きうる。一方で、その齟齬を避けようと括弧書きで毎回数値を添えれば、文章は読みにくくなる。明示性と読みやすさの間で、どこに線を引くかは恒常的な課題として残る。

関連する論点

言葉のヘッジを設計する実務的な視点は、「たぶん」をどう設計するかで扱った。確率と頻度の伝え分けは、確率で伝えるか、頻度で伝えるかを参照してほしい。

IPCC が示したのは、曖昧な言葉を放置せず、明示的な約束へと変える一つの方法だった。完全な解決ではない。それでも、確からしさと確信度を分け、用語に範囲を与えるという作法は、機械の不確実性をどう言葉にするかを考えるうえで、いまも参照に値する設計の前例である。

出典

  • Michael D. Mastrandrea et al. “Guidance Note for Lead Authors of the IPCC Fifth Assessment Report on Consistent Treatment of Uncertainties.” IPCC, 2010.
  • IPCC. “Climate Change 2021: The Physical Science Basis (AR6 WG1), Technical Summary.”(確からしさ用語の運用)
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